DRIP POD STORY
〈インタビュー〉Minimal×DRIPPOD カカオとコーヒー
カカオとコーヒー。
産地・農園の原風景を閉じ込めた、“ありのまま”の味
[対談]UCC農事調査室 室長 中平(写真:左) × Minimal 代表 山下氏(写真:右)
UCC農事調査室室長として農園の土づくりから製品開発まで一貫してコーヒーと向き合う 中平 と、
2014年の創業以来、日々チョコレートと向き合う Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)の代表 山下氏。
UCCの掲げる“カップから農園まで”と、Minimalの掲げる“Bean to Bar”。
2つのブランドをつないだのは、世界中に溢れる、美味しいコーヒー・美味しいチョコレートをもっと多くの人にお楽しみいただきたいという強い想い。対談を通じて、農園の原風景を感じる“ありのまま”の味の魅力や、こだわりを紐解きます。
プロフィール
中平 尚己(なかひら なおみ)
UCC農事調査室室長として、コーヒーの農事技術の研究・開発、指導、製品開発などを手掛ける。農園の土づくりから製品化まで、一貫して携わることも。コーヒーの個性を引き出した「最高の一杯」を、生産者の思いとともにお客様にお届けできるよう日々努めている。
山下 貴嗣(やました たかつぐ)
「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」を設立。
年間4ヶ月強カカオ農園に足を運び、100% フェアトレード買付と品質改善に取り組む。チョコとの国際品評会で多数授賞実績。カカオとチョコレートを取り巻く貧困問題の解決、徹底したモノづくり追究、ブランドのスケーラビリティの実現を目指す。
それぞれのブランドが持つこだわりを教えてください。
山下氏 “Bean to Bar”とは、 カカオ豆の選別・仕入れから加工・製造・販売までのすべてを手がけるチョコレート造りのスタイルです。厳選したカカオ豆を使い、余分な添加物を入れない、“引き算の製法”を採用したのは、産地に行った際に「素材のカラフルさ」に感動したから。カカオは、元は農作物です。世界中に散らばる産地ごとに旬は異なるし、旬の時期のおいしさも異なる。その土地の原風景を閉じ込めたようなチョコレートを作りたいと思っています。
中平 カカオとコーヒーはとても似ていますね。コーヒーも元はカカオと同じ熱帯系の植物の実から種子を取り出し、加工しています。産地や、農園の区画によっても甘みや酸味など、異なる味わいになります。“ドリップ”は、コーヒー豆とお湯をなじませ、素材が持つ味わいを感じ取る淹れ方。同じく水に素材の味をうつして楽しむ「出汁(だし)」文化を持ち、素材そのものの味わいを感じ取る繊細な舌をもつ私たち日本人になじみのある淹れ方です。多彩で、素晴らしい素材(コーヒー)の味わいをありのままに楽しんでほしいという想いから、“ドリップポッド”の開発に至りました。
なるほど。”素材”へのこだわりですね。
農園/原料から関わろうと思ったきっかけはあるのでしょうか?
中平 UCCの研修制度を利用し、農園に行ったことですね。同じ農園でも、土壌や品種など栽培方法で全く味が異なるということを現地で体感し、コーヒーの世界観、深みを原体験として知ることができました。また、生産者から消費者に届くまでの仕組みを知れたことも大きかった。「商品」を起点に豆の買い付けを行うだけでなく、まずその素材の品質・味覚を知るところからはじめて、お客様にお届けする「商品」を作り上げていくアプローチもあると気付きました。
山下氏 私は“Bean to Bar”というカカオ豆からチョコレートを作るスタイルに出会ったことです。カカオでもスペシャルティコーヒーのように「素材」の品質で勝負する世界を拓けるのではないかとワクワクしました。もともと私自身コーヒーやワインも大好きですし、今でも世界中の様々なカカオ農園の豆を食べてみたいと思っています。(笑)
中平 私もスペシャルティコーヒーとの出会いがコーヒーの世界に深く入るきっかけでした。素材によってまったく味が違う、そこが農園にとっての差別化になり、価値となる。その価値を日本のお客様に伝えていくことが重要だと思っています。
山下氏 Minimalにとって、製法や伝えるコミュニケーションはとても大切です。しかし、Minimalでのスペシャルティチョコレート作りの活動を通して、同等かそれ以上に素材(カカオ豆)が大事だと気付きました。産地・農園の原風景を見て、拓かれていく未来があると思いました。日本のお客様によりおいしいチョコレートをお届けするためには、産地のクオリティをもっと高められる、そう思ったからこそ、今でも困ったときや迷ったときには産地に戻るようにしています。
お二人にとって一番印象に残っている農園はありますか?
山下氏 インドネシアのある農家さんとの出逢いが、今の自分の考え方に大きく影響しています。
実はカカオ農家さんの多くは、自分のカカオ豆で作ったチョコレートを食べたことがありません。私たちは「素材」の大切さを知ってほしくて、彼らのカカオ豆を使ってチョコレート造りのワークショップを行いました。彼らは初めて自分のチョコレートを食べてとても興奮し、「もっと美味しくするためにはどうすれば良いのか?」と目を輝かせていました。
しかし、1年後に再来訪した際に待っていてくれた農家さんはたった1農家さんだけでした。それは突きつけられた厳しい現実でした。
彼らにとって良い取り引きとは、高品質なものをより高い価格で取引をするということではなく、量が増える取引を選ぶということです。
しかしその中で1人の農家さんだけが取引をしてくれたのです。
今思えば愚問ですが、「なぜ他の農家が大手企業と大量に取引をすることを選ぶ中で、Minimalと取引をしてくれるの?」と聞きました。するとこう返ってきたのです。
「私は祖父の代からカカオを育ててきた。政府のカカオ研修にも参加したこともある。でも誰もチョコレートの本当の美味しさを教えてくれなかった。美味しいチョコレートの味を初めて教えてくれて、どうすれば自分のカカオ豆が美味しくなるかを教えてくれた。そして私たちのカカオ豆が美味しいということを世界に届けてくれる。朝から晩まで働いて、量で収入を上げる方法もあれば、品質を高めることで収入を上げる方法もある。Minimalは「選択肢」があることを教えてくれた。」
その言葉を私は一生忘れることはないと思います。
“本当の豊かさとは自分の意思で選べること”。
この経験が私の考え方を大きく変えました。私たちがやっていることは白黒でどちらが正しいというわけではなく、あくまでも選択肢の一つにすぎません。Minimalとして高品質のチョコレートをお客様に提供するために、10年、20年先の未来を夢見て持続可能な農業を農家が選択できること、そして何よりも一緒にやりたいと思ってくれること。そのために、自分たちの思いを世界のカカオ農家に届けていきたいと学ばせてもらいました。
中平 山下さんのインドネシアでの出逢いとシンクロする部分があるのですが、私にとってはエチオピア ベレテ・ゲラ地区に訪れたときに初めて商品と産地を繋げられたという実感がありました。
エチオピアはアラビカ種の起源となる国でもあり、まだまだ可能性のある農園がたくさんあります。しかし、現金収入を得るために森の木々が伐採され、環境破壊が懸念されていました。その中で、経済的豊かさと自然環境の保護を両立するための作物が、森林の中で自然のままに育っているコーヒーでした。
コーヒーの本当の価値を引き出し、付加価値をつけて製品化し販売する。そして生産地ではその製品の認知度を上げるため、品質の改善に取り組むというサイクルができていました。
「買ってあげる」「売ってもらう」など、目線に上下をつけるのではなく、現地の方と同じ視点でいることが大切。
そうすることで見えるものがあるし、可能性が広がるということを学びました。
より良質な素材を求めて“農園”からこだわる2つのブランド。
道は違えど、志は同じですね。
中平 コーヒーもカカオもそれぞれのバックグラウンドは違うけれど、「より良いものをつくる」という一貫した想いは同じですね。特に素材の可能性を追求するというところはとても似ていると思います。
山下氏 産地に足を運べば運ぶほど分からないことが増えるし、生産者とともに切磋琢磨しながらさらなる品質の向上を目指す。そして生産者の精魂込めた豆を製造者としてお客様に届け、お客様からの声を今度は生産者に伝えることでさらによい豆を生産し、より品質の高い製品をお客様に届ける。そういうポジティブなサイクルの輪を広げていくことによって、世界を少しでも変えられるのではないかと思っています。