JOURNAL
特別な一杯を届けるために。
コーヒー鑑定士が語る、
スペシャルティコーヒーの
選定と味づくり
世界に70ヵ国以上あるといわれるコーヒー生産国では、それぞれの土地で個性豊かなコーヒーが育まれています。わたしたちがお届けするドリップポッドのカプセルには、その魅力を引き出し、様々なコーヒーとの出会いを広げてお楽しみいただきたいという思いが込められています。
一杯のおいしいコーヒーへとつなげていくためには、コーヒーの栽培から抽出までどの工程も欠かせません。コーヒー豆の品質を見定め、その個性を引き出す味づくりの工程は、さまざまな産地の特徴を熟知するコーヒー鑑定士※が担っています。
今回は、ドリップポッドの「スペシャルティカプセル」の原料買付から味づくりまで監修を担うコーヒー鑑定士※、UCC農事調査室中平室長にスペシャルティコーヒーの魅力についてお話を伺いました。
※コーヒー鑑定士…コーヒー豆取引における知識、ブレンド製造技術などを習得したものが取得できるブラジルの資格
農園を選定する上で大切にしているのは、「信頼関係」
これまでにドリップポッドの「スペシャルティカプセル」で展開してきた農園には、どのような特徴がありますか?
中平:ドリップポッドストアでこれまで販売しているコロンビア ルパタ農園、ルワンダ フイエマウンテンなど、他にもいくつかの農園を選定して、皆さまにお届けしてきました。ほとんどの農園はもちろんスペシャルティコーヒーとして注目されているエリアです。
様々な産地との出会いがあった中で、ドリップポッドのスペシャルティカプセルの原料を選ぶ過程で大切にしてきた思いはありますか?
中平:まず、それぞれの個性や風味があって、様々な味わいのコーヒーを紹介して楽しんでいただきたいという思いがあります。わたしが農園を選定する上で一番大切にしているのは“人と人とのつながり”です。この地域・農園をもっと良くしていきたいという想いが我々にもあるし産地の方々にもある、そういったところを特に重視しています。素晴らしいコーヒーを作り上げるには、信頼関係がすごく大事です。信頼関係の深い農園が結果的に長いお付き合いになり、品質の良い素晴らしいコーヒーを生み出すことに繋がっています。
おいしいコーヒーを農園と一緒につくっていくという覚悟をもつということ
おいしいコーヒーを作るために、実際に産地や農園でどのようなアドバイス、サポートをされているのでしょうか?
中平:更なる品質向上のために、品種の選定、栽培方法などあらゆる工程において、アドバイスやサポートをしています。年間100日は現地に出向いています。
例えば、ルワンダフイエマウンテンでは、生産性と品質の向上を図るための活動を行っています。環境負荷の少ない農法を取り入れ、土壌改良やシェードツリーの導入、マルチング※や剪定の技術導入、苗床の寄贈を行っています。近年では、栽培エリアの標高の違いによるグレーディングやテロワールを最大限に引き出す様々な精製方法に挑戦することで、品質に裏打ちされたブランド強化を図っています。
こうしたサポートは、ただ提案するだけでなく、現地に直接出向き、生産者と目線を合わせて二人三脚でコーヒー作りを行うことを大切にしています。
産地・農園によって様々だと思いますが、どのような課題を抱えているケースが多いのでしょうか?
中平:アフリカ諸国の多くの生産者は、自分たちが作るコーヒーの価値を知る機会がありません。生産者の多くは小規模農家です。その多くは、およそ10~20の農家で組合を結成し、ひとまとめに集めたコーヒーを輸出業者へ引き渡して換金するシステムによって決められた収入を得ています。それぞれの単一農家が作るコーヒーが個別評価される機会は少なく、実際には品質の高いコーヒーであっても適正な価格で取引されていないケースが多く見受けられます。
こうした課題に対して、わたしたちが介入する意義は非常に高いと考えています。生産者へ適正な価格で取引を行う、ダイレクトトレードという選択肢を提示することで、生産者自身が能動的に収入を増やせるように変えていける。“今”だけでなく“未来”を見据え、持続可能性のある支援としてどのようなことができるのかを模索し、実行していくことが大切だと考えています。
※マルチング…土壌表面を枯草や堆肥などで覆い、肥沃な土壌へ改善するための農業技術。
スペシャルティコーヒーにしかない風味の特徴
中平さんが考える、スペシャルティコーヒーのおいしさの魅力はどういったところにありますか?
中平:スペシャルティ―コーヒーの魅力はなんといっても、コーヒーでありながら“フルーティー”な味わいがあるというところですね。
フルーティーといっても単に酸っぱい、甘いとった味わいの要素だけでなく、柑橘フルーツやベリー、ストーンフルーツ、ジャスミンや、ダージリンティーのように、風味の個性が具体的かつ明確です。
スペシャルティコーヒーとコモディティコーヒー(一般的に流通しているコーヒー)との違いは、どういった点にありますか?
中平:広義なスペシャルティコーヒーとしての最低限の条件は、味覚と生産地(生産国)が明らかになっているということです。
スペシャルティコーヒーは、品質、味わいともに特に優れたコーヒーとして、認定されたコーヒーです。また、単一農園、エリアなど限定された、収穫の記録がトレースできるよう、徹底的に管理されています。このため、生産コストがかかることから、生産量は限られてしまい、どうしても価格が上がってしまいます。
スペシャルティコーヒーとして流通しているコーヒーは、どんな生産者がつくっていて、それがどうおいしさに紐づいているのかが知れるからこそ、そこに対価をはらっても楽しみたいというニーズが生まれる、嗜好品として魅力の高いコーヒーです。
一方で、いわゆるコモディティコーヒー(一般的に流通しているコーヒー)は、SCAのカッピングスコアで80点以下のコーヒーです。コモディティコーヒーの多くは、収穫期を通じて、収穫されるコーヒーをひとまとめにし、それぞれの国のルールに従って決められたグレードごとに認められています。価格もスペシャルティコーヒーと比較して安価に取引されるため、日常的に飲用されているコーヒーです。
変革するスペシャルティコーヒーの評価基準”消費者の嗜好を取り入れた新たなアプローチ”とは
”スペシャルティ”と”コモディティ”それぞれの違いを踏まえた上で、現在のコーヒー市場において、コーヒーのおいしさを評価する基準に変化はあるのでしょうか?
中平:各国でコーヒーの需要が高まる中、様々な特徴をもったコーヒーが流通するようになりました。各国の文化や飲用習慣の違いから、スペシャルティコーヒーの基準は、多様性を認める視点を持って広く捉えられようとしています。実際にSCAでは、品質的な良し悪しのみならず、消費者の嗜好性や文化的な背景も含めて”おいしいコーヒーとは何か?”を適切に評価するため、新たな評価方式をつくる動きがあります。
新たな評価方式は既存のものと比較してどのような違いがあるのでしょうか?
中平:既存のスペシャルティコーヒーを評価するカッピングフォームは、品質評価や欠点を見つけ出すための基準が含まれており、スシャルティコーヒー市場において高品質とされる風味や特性に焦点が当てられた設計になっています。2004年から導入されて以来、スペシャルティコーヒー業界で長く使われてきましたが、現代のコーヒー市場の変化に対応しきれていないという課題が指摘されています。
そこで新たに検討されているのが、「CVA(コーヒー価値評価)」です。CVA方式のカッピングフォームは、品質評価だけでなく、風味の個性や飲みやすさ、消費者の嗜好など、さまざまな視点からコーヒーの価値を評価できるように設計されています。例えば、消費者が好む味わいや、抽出方法ごとのコーヒーの適性を評価する項目が含まれています。
今後、CVAが導入が進めば、世界中のさまざまなコーヒーを公平かつ包括的に評価できるようになり、集められたデータをもとに消費者の好みや市場の動向を分析するデータベースとしても活用されることが期待されています。