JOURNAL

スペシャルティコーヒーを
プロが解説
「スペシャルティコーヒーってよく聞くけど、なんだか難しそう…」「普通のコーヒーと何が違うの?」そんな疑問を持っている方に向けて、UCCコーヒーアカデミー東京校 専任講師であり、ドリップポッドYOUBIのプロレシピを手掛ける村田さんに、スペシャルティコーヒーの魅力や選び方、家庭で楽しむコツまでじっくり聞きました。
【PROFILE】
村田 果穂(むらた みほ)
「ジャパンブリューワーズカップ2014/2015」にて準優勝。CoE(カップオブエクセレンス)国際審査員をはじめ、「CQI 認定 Q アラビカグレーダー」「SCA 認定 バリスタトレーナー」「マイルドコーヒー クオリティコントロールスペシャリスト」などの国際資格を持つ。UCCコーヒーアカデミー講師、コーヒーの買い付け、製品開発も行うとともに、YouTube コンテンツ「UCC コーヒーアカデミー」のMC も担当。
スペシャルティコーヒーの基本

スペシャルティコーヒーと
普通のコーヒーの違いはなんですか?
スペシャルティコーヒーは、産地特有の気候や土壌、品種や精製方法など、さまざまな条件が生み出す風味の個性を楽しめるコーヒーです。単に「美味しい」だけでなく、「その土地らしさ」が味に表れます。
このようにコーヒーには多様な楽しみ方がありますが、市場での位置づけにより品質評価の考え方にも違いがあります。一般的なコモディティコーヒーは、大量流通を前提とした“汎用品” として安定供給が求められるケースが一般的であるため、生産国ごとに定められている基準に合わせて「欠点がないかどうか」といったネガティブチェックによる評価が中心です。
一方スペシャルティは、希少性や付加価値のあるコーヒーとしての意味合いが強いため「どのような良い風味があるか」を評価するポジティブチェックが行われます。良質な酸味や甘み、華やかな香りなどが感じられやすく、ワインの世界のように風味の多様性を楽しむ“味の違いを楽しむコーヒー” としての文化が広がっているのも、スペシャルティならではの魅力です。

生産者が大切にしていることは
ありますか?
生産者は、自分たちのコーヒーがどのように評価され、どんな風に楽しまれているかを強く意識していますね。実際に様々な生産者と対話をするなかで、農園名がそのまま品質の証になるため、一粒一粒に強い責任と誇りを持って向き合っているのだということを知りました。
たとえばホンジュラスのエルプエンテ農園では、数十ヵ所の飛び地状区画に合わせてカトゥアイやゲイシャなど適した品種を栽培し、農園内でも品種ごとの個性を引き出す工夫がなされています。また、収穫作業を担うピッカーの待遇改善や機械化による負担軽減にも積極的に取り組み、品質の継続的な向上と安定供給を支えています。こうした姿勢の背景には、「継続して良いものを届けたい」という信念と、消費者とのつながりを大切にする想いがあります。
味わいの違いについて

産地や精製方法によっての
違いはありますか?
たとえば、同じ農園内でもも、標高、土壌、日照量によって味わいは変化します。精製方法でも違いが出て、果肉をつけたまま乾燥させる「ナチュラル」はフルーティで華やかな風味に、果肉を除いて洗浄する「ウォッシュド」はクリアでキレのある酸味が特徴です。
エルプエンテ農園のように、区画を分けて栽培することで同じ農園でも多様な味わいが生まれます。近年では、風味個性をより引き出すための手法として、コーヒーチェリー(コーヒーの実)をコーヒーの果汁に漬け込んだり 、嫌気性で発酵※させたりすることで生まれるユニークな風味個性をもつコーヒーなどが作られており、コーヒー産地においてワインやクラフトビールに似たアプローチが取られているのも面白い点です。
※ 嫌気性発酵とは、酸素を使わずに発酵させる方法で、個性的な香りや風味を生み出します。
自分に合うコーヒーの 味わいに出会うには?

自分好みの味を見つけるための
ポイントはありますか?
まず注目をしたいのが「酸味」と「香り」です。パッケージなどの商品説明にオレンジやベリーなどのフルーツが書かれていれば、明るく華やかな酸味を感じられる可能性があります。チョコレートやナッツ、ドライフルーツのような表現があれば、まろやかで落ち着いた味わいかもしれません。
また、最初は端的に浅炒りや深炒りの豆を選ぶよりも、中炒りあたりを試してみるのがおすすめです。いくつか飲み比べていくうちに、自分の好きな風味や産地が見えてきますよ。
ドリップ式で淹れる 魅力とメリット

ドリップで淹れる魅力は
なんですか?
ドリップは、スペシャルティコーヒーの繊細な風味をしっかり引き出せる方法です。ペーパーフィルターなら酸味の輪郭や香りを鮮明に表現できます。また、ドリップポッドのカプセルのように不織布フィルターであれば、コーヒーオイルが液体に残りやすく、口当たりに厚みが生れます。
プロが大切にしているポイントは ありますか?
生産国や標高などの栽培環境、品種、精製方法、焙煎、コーヒー豆の状態などのプロフィールを知ることをまずはとても大切にしています。見た目や香りをチェックするなど五感を使いながら、適切な湯量や湯温、抽出スピードを設計することで、そのコーヒーが持つポテンシャルを引き出すことを目指しています。
スペシャルティコーヒーを 気軽に楽しむには

家庭で楽しむコツがあれば
教えてください
普段“スペシャルティを楽しみたいのだけど淹れ方の正解が分からない” という相談をいただくことも多くあります。やはり初心者の方ほど、“抽出” が一つのハードルになっているのではないでしょうか?
ドリップポッドYOUBI では、コーヒーの個性をさらに広げて楽しめるよう、私たちが開発した抽出レシピをボタン一つで楽しんでいただくことができるので、難しく考えずまず試していただきたいですね。コーヒー豆の違いを知って好みを見つけたい方は、2 種類以上並べて、少量ずつテイスティングしてみることもおすすめします。
また、抽出したコーヒーを味わうカップ選びも楽しみを広げてくれるアイテムになります。形状や重さ、素材の違いによって味の感じ方が変わるのも面白いポイントです。たとえば、口径の広がったカップは酸味や繊細な味わいを感じやすく、細いフルート型のカップは苦味やコクを感じやすくなります。
また、カップの色がコーヒーの味の感じ方に与える影響を調べた研究論文※では、カップの色がコーヒーの味の知覚に影響を与えることが示されており、特に白いカップで飲んだコーヒーは、苦味や濃さが強く感じられる傾向があると報告されています。カップのデザインや色ひとつで、味の印象が大きく変わるのはとても興味深いですね。お気に入りのカップを見つけることで、気分も味わいもさらに豊かになりますよ。
※『Does the colour of the mug influence the taste of the co ee?』(Van Doorn et al., Flavour, 2014)

まずは、失敗を恐れずに直感で選んだり、気になったコーヒー豆を手に取って、いろいろ飲んでみることから始めてみてください。
また、スペシャルティコーヒーはその味わいだけでなく、農園のプロフィールを知ることができるのが面白いところ。その一杯がどんな人たちの手を経て、どんな思いで作られてきたのかストーリーにも触れてみてほしいです。好きな農園やロースターに出会えたら、きっとコーヒーの楽しみがもっと深く、広がっていくはずです。